第5話)日本と西洋のカットの違い(後編)

後編


この西洋から始まった現代のヘアースタイルは、西洋人の「多く見せたい、艶やかなハリのある髪に憧れる」というのが原点にある。それが日本国内でも60年代、70年代にはワンレングスといえば、本当に真っ直ぐ綺麗に切りそろえるのがワンレンだった。


しかし、その西洋人標準の好みのスタイルでは、日本人の「動きのある軽やかな髪」にはならない。そこで日本では、削(そ)ぐ、梳(す)く という技術が発達してきた。その削ぎの法則は80年代後半から進化を磨げ、今ではそれ無しでは日本のスタイルは作れないと断言できる。


同 じワンレングスでも、日本のワンレンは、世界標準のワンレンに切ったあとに、繊細に計算された削ぎ加減で、毛先が微妙に柔らかい動きを出す。この削ぐ計算 が削ぎの方程式と経験と勘なのである、この計算されたカットをしてもらったお客さんは、手入れがしやすく、長持ちもする。しかし、15分と言う短時間では カットはできない。ただ切り落とすだけのカットなら別だが、削ぎにはたくさんの計算が必要である。

 

僕がカットする前にチェックする項目があります。

1、毛の流れ
2、渦巻きの位置

3、頭の歪み具合

4、分け目
5、襟足
6、生え際
7、毛質
8、傷み具合
9、デザイン

これらを考慮して、その部位部位で
1、根元から何パーセント削ぐか
2、中間から何パーセント削ぐか
3、毛先は何パーセント削ぐか
4、スライドカットの必要な場所はどこなのか

を見極めてカットしていきます。

 

残念ながら、日本国内にいる美容師さんの全員が同じように考えているわけではなく、勉強しているほんの一握りの数少ない美容師さんだけは「どうやったらお客さんが毎日のスタイリングを楽にできるか、どうやったら長持ちするか」を考えています。

 

こんな繊細な「削ぎの技術」を考えなくてもよい西洋のカットですから、日本人のような硬くて太くて多い髪のお客さんが西洋人のサロンにいくと、思ったようにならないのです。

 

僕にも失敗の経験があるのですが、初めてブロンズのオージーのお姉さんの髪をカットした時のことである。西洋人は髪は細いけれど、本数はアジア人の1.2倍~1.5倍あるので、とても多く感じられます。

 

そこで、僕は多いから根元から梳けばいい・・・・と思って、根元から中間にかけて削ぎをいれました。もちろん分け目は深い所から削ぐと短い毛が立ってしまうので、毛先しか梳きませんが・・・・。

 

そ の結果、シャンプーをしたあとに現れたオージーの女の子は、猫がシャンプーしたあとのようなペタンとした情けない髪の量・・・。乾かしたらボリュームは出 るので、乾かそうとしたらブローができない。そう、根元と中間から削がれた髪の毛は、重さがないのでクセ毛に負けてクシュクシュとブラシの目に引っかかっ てこない。おまけに毛先が細々となっているので、しっかりした毛先に力がない。もう敗北でした。

 

ここでわかりました。西洋の教科書では、毛先3分の1までしか梳いてはいけないとある理由が。この失敗が僕をオーストラリアの専門学校へ導いてくれたのであった。

 

日本には、日本人の髪の性質と好み、それが歴史となって今の日本のカット理論ができあがっている事に気づいた。これを海外の美容室に行っても、やはり何かが違って当たり前である。

 

一つ気がついたのは、西洋で勉強した人が日本のカット理論を取得するのは半端じゃなく大変だろうけど、その逆、日本で修行をして海外に出れば直ぐに適応できると思う。