第3話)日本とオーストラリアの現場教育の違い。

自分が日本で見習いをやっていた時は、寮生活をしていたので、限りなく練習する環境にあった。朝99時まで営業だったので、8時半までにはサロンに入れるように出勤をし、冬場は駐車場の雪かきがあるので7時半にはサロンに入り準備をする。9時にはお客さんが入ってくるので、休む暇などなく夜まで仕事、ランチタイムなどは5分あればラッキー。夜855分にパーマなんていうのもあり、そうなると夜の11時過ぎまでお客さんがサロン内にいる。原則、サロンの中にお客さんがいる時は、掃除や洗濯機は回せない。ひたすらお客さんが終わって帰られるのを待ち、やっと掃除と洗濯を開始できる。それから練習を行い、終わったら、もちろん深夜の1時や2時だった。

 

休日の前の日は、朝まで練習ができるので、朝刊が来るまで練習をし、朝ごはんを食べてから寮に帰って寝る。そして夕方にサロンに戻り練習してから翌日のサロンの用意をして一週間の始まりを待つ。

 

一週間の練習時間は20時間を越えていた。休み無しの365日の練習だった。


 

オージーのサロンを見てみると。。。営業時間が朝9時からだとスタッフは朝9時丁度にサロンに入る。見習いの子でも、10分前に来れば良いほうだ。朝一番のお客さんがサロンのドアの前で待っている事も珍しくない。夕方5時には閉店なのだが、閉店と言う意味は5時に鍵を閉めて帰るという意味だから驚く。

 

練 習会などは、週一で行なっているサロンはあるけれど街でもトップサロンだ。誰もが簡単には働けないしオーディションを受けてからじゃないと雇ってもらえな い。そんな高級サロンでも練習会となれば1週間に2時間程度のものだろう。美容師見習いでも「仕事」と割り切っているのでサロンは技術を学ぶ場所ではな い、給料をもらう場所なのである。中にはモチベーションが高くて、練習するスタッフもいるが営業時間中だ。

 

本気でカラーを覚えたい子は、ウエラやシュワルツコフなどがメーカーで教室を開いているクラスにお金を払って参加して学ぶ。カットを覚えたいスタッフは、お金を払ってトニー&ガイや、メーカー主催のカット教室に参加をして技術を学ぶ。サロン内では教えてくれないからだ。

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<メーカー主催の講習会>

日本は低く見積もっても一ヶ月に60時間の練習時間。

オーストラリアは、高く見積もっても一ヶ月に12時間の練習。

 

日本のスタイリストは、5年で一人前と言われる(個人差はあるが)。5年でカット、カラー、パーマ、縮毛矯正やエクステなど、殆どの技術を取得できる。

 

もし、オーストラリアの練習のスピードで日本の5年経験のスタイリストに追いつくには、

最低でも25年はかかる計算になる

60時間/月 x 60ヶ月(5年)=3600時間

12時間/月 x 300ヶ月(25年)=3600時間

 

こっちでは、カットしかやらないカッター。カラー専門のカラーリストと分担制になっているケースが多いのだが、全部できるようになるなんて彼らの練習時間では無理なので、カットだけをひたすら取得し、またはカラーだけをとことん勉強して・・・と言うのが精一杯なのである。

 

僕 がオーストラリア人のサロンで働いていた時に、他のカラーリストやカッターの同僚に言われていた言葉が、「お前のように全部の仕事できる奴なんて、本当に 珍しいんだよ。そんな奴は見たこと無い」と、よく言われたが、日本では当たり前なので喜べない。逆に全部仕事ができるのに、肩書きが格好良いからなのか、 カラーリストを置いているサロンを日本国内で耳にするが、それがお客さんにとって何のメリットなのが、個人的には疑問である。外国のカラーリストは、全部 仕事を覚えるのが無理だから仕方が無いという理由もあってのカラーリストなんだが、日本の良いものが間違ったイメージで崩れていくのは心配である。

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 <営業中に練習をする>

日 本の美容師さんは休日でも講習会、講演会、教室、コンクールなど、休日は全て返上して技術向上のために走り回っているが、こっちでは、そんなことする人は 1%もいるのだろうか?休日は自分のために使うものなので、仕事はあくまでも週に38時間だけ。日本の美容師事情を話ししたら誰もが「クレイジー」という (笑)

 

日 本人が海外の美容師学校へ行き、現地のサロンで働いて技術を取得しようとする人も多いが、日本人のカット理論は習わないし練習や勉強する環境が整っている のか疑問である。将来、日本人を相手に仕事をするのであれば(場所は海外でもどこでもいい)日本国内でしっかりとした技術を学んでおかないと、海外には日 本の技術を学べる場所がない。

 

中にはバイリンガルで、日本人をターゲットとしないでも白人相手に仕事をすると決めた人は、海外の数少ない有名店で働くのを目指し、日本の理論を学ばずに西洋の理論を取得して勝負するのもよいが、やはり英語力がカギとなるであろう。

 

理美容に限らず、どの分野でも日本のクオリティは世界一である。その世界一の技術を学べる日本でしっかりとできない人は、中途半端で海外に出ても、結局は中途半端になってしまう。