第4話) LAでの裁判

アメリカのビザが切れるので、一度日本へ戻った。そしてすぐにアメリカから電話が掛かってきて、「証人としての出廷命令が出てる、ビザが発給されるので、住所を教えて欲しい」とのことだった。損失分のお金は全額戻ってくるとは思ってなかったが、アメリカの法廷に立つことができるなんて、一生に一度あるかないかのチャンス!飛行機代は実費だったが、二つ返事で行くことにした。

電話の後、数週間経って アメリカの警察からレターが届き、それを持って札幌のアメリカ領事館へ行った。丁度ニューヨークの 2001/9/11テロの直後だったので建物の周りには道警のパトカーが非常灯を付けたまま停まり、警察官が門の前に仁王立ちをして厳重な警備体制を取っていた。

領事館の入り口には、飛行機に乗る前に通るセキュリティの装置が置いてあり、手荷物を機械に通し、自分自身もゲートをくぐった。ベルトの金具に機械が反応して止められ、ボディチェックをしてから中に入れてもらえた。

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    (写真)LA市警から、僕が証人として出廷できるように、特別なビザを発行して欲しいと在日アメリカ大使館 への手紙。


実はこの裁判用のビザが5年間も出た。アメリカは3ヶ月の学生ビザを取るのにも苦労をするのに、警察からの手紙1枚であっさり5年のビザが出るのも凄い!これで労働許可もついていたら別な人生を歩いていただろう、今頃はオージー訛りではなく、アメリカンな英語を話していたに違いない。

僕はこの裁判で被害者として出廷した。アメリカのドラマに出てくるようなシーンの連続で良い経験をさせてもらった。こんな事を言ったら不謹慎だと怒られそうだが、正直言うと「楽しめた」。

自分の番が回ってくるまで、二つの裁判を傍聴できた。英語が分からないのが悔やまれたが、オレンジ色のつなぎの囚人服のようなのを着せられ、後手錠をかけられた体格のデカイ男性三人、絵に描いたような極悪犯顔で「いかにも」だ。ゾロゾロと入ってきて横並びになって裁判が始まった。

証人席では年配の男性が「車を壊されて、殴って、なんとかかんと か~」って身振り手振りで状況説明をしていた。(当時は英語が全く理解できませんでした(涙))

3~4時間傍聴したあと自分達の番になった。弁護士に連れられて入ってきた誠二は、罪状が詐欺だったからなのであろう、手錠はかけられていなかったが留置場にしばらく入っていたのでゲッソリした感じに見えた。相変わらず下から見上げるような目つきで視線は定まらないオドオドした様子だった、まるで子供が悪さをしていて、親にばれてはいないかと顔色をうかがってビクビクしている、まさにそんな感じだ。

誠二に初対面で合った時の第一印象が、堂々と振舞っているようなのだが何かコソコソしてるような感じで目が常に動いている。仕事をしている最中も、鏡越しにいつも人の顔をうかがっていて目が合ったら視線をすぐに逸らし、視線を外した後もしばらくは目が泳いでオドオドしながら仕事をしている。今思えば誠二の心中は、いつ自分犯した罪が見つかりやしないかビクビクしていたのだろう。その反面、中毒となってしまったカジノでのカードゲームが止められない、まさしく中毒患者のような目つきだった。

目の前に置かれた聖書に左手を乗せ、右手は肩のの高さに上げて、証言に嘘はないと宣誓した。映画のワンシーンのようだった。
僕の右横には黒いマントのような服を着た裁判官が少し高い席に座っている、アメリカではお決まりの星条旗が飾られていて、目の前には書記なのだろう、ブロンドのショートヘアーの似合う若い女性がラップトップのキーボードをカタカタと音をならして、皆が話している事を一生懸命に記録している。僕には通訳がついてくれて、なんと日本語を話す韓国人の禿げ上がったおじさんだった。

この通訳の日本語力にビックリした。この日本語力で僕の話すことを正確に伝えてくれるのか?凄く不安だった。自分の発言は、この韓国人にも理解できるように難しい言葉は使わないように、通訳しやすいような語順を選んで証言をしたので、えらく疲れた。裁判の途中に相手の弁護士から「通訳が正しく成されてない」とクレームが入り、この韓国人のおじさんは動揺していた。

その場で判決がでた。結局、誠二は有罪。バッド・チェックを切った分の3,000ドルを速やかに返すこと、あとは社会奉仕をすることが判決。クレジットカードを盗んで引 き出したことについては、証拠不十分で立証できなかったらしい。恐らく裏で司法取引があったのだろう、さすがアメリカだ合理的にできている(笑)

別件である、お客さんが組んだローンの1千万円、里恵さんの300万円は民事不介入の原則?で、泣き寝入りとなった。「借りたもの勝ち」なのかと悔しい思いがしたが、不服だったら民事裁判に法廷を移し続けるしかない。
実は民事裁判でもとっくに訴訟を起こしていて、スタッフの里恵さんの帰ってこない300万円も一緒にして、精神的苦痛も合わせて、約1000万円の訴訟だった。報酬制でお願いしていた弁護士には33%、里恵さんに33%、僕に33%の割合でお金を戻してもらうという配分だ。
しかし、誠二は家も車も財産も奥さん名義にして離婚した。弁護士もお金が取れないと分かってからは音信不通となった。悲しいかな、世の中ってこんなものだろう。

それにしても「同じ美容師として情けない、いや同じ日本人として情けない。」

海外にいる日本人は、みんなが燃えるような情熱を持って日本を飛び出して頑張っている人だと思ったのだが、裏切られた感じだ。
尊敬できるような日本人に出会うのが、とてもとても難しかったのだ。


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